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2 英語をものにするとは

  英語は得意ですか。 何歳で英語を学習し始めましたか。 学校での英語学習は楽しいものでしたか。 英語に関する

検定を受けたことがありますか。

  一般的な答えを類推してみます。 多くの高校生を見て感じていることです。  英語は得意とは言えない。 何とか

読めるけれども、聞いたり話したりは苦手である。  英語は中学入学出始めた。 小さな頃習っていたけれど、あまり

役立ったとは思えない。  学校での英語学習はテスト中心で楽しくなかった。  外国人の先生の授業だけは息抜きに

なった。  検定は、英語検定3級・準2級・2級を持っている。  大学でTOEICを受験してクラス分けされた。 就職の

ためにTOEICの高得点を目指した。 

  いかがですか。 この類推に少しでも見覚えがある人は、日本の学校教育、それも英語教育をまじめに受けてきた

誠実さがあります。  まじめにやっているとこうなるのが普通だと思います。

  なぜ英語教師の私がこんなことを言うのでしょうか。 私の大学院時代の専攻は「言語獲得」でした。 普通の

高校生だった私が、アメリカ人の宣教師に英語を学び、留学して同じ年くらいのアメリカ人の女の子に、発音がおかしい

とさんざんいじめられ、「聴く」ことで英語がわかり始める経験をし、これはもう「人はどうやって言語を自分のものにして

いくのか」を研究するしかないなと思いつめたのでした。 ところが、英語圏では早くから研究されてきた「言語獲得」という

概念が、日本の大学にはほとんど見当たりません。 英語と言う言語が、植民地支配や移民の問題と切り離せなかった

という背景と、日本語さえわかれば本当のところそう困らない(困らなかった)という背景に、その大きな差を見つけること

ができます。 要するに、私たち日本で暮らす人々は、やはり鎖国の時代から変わらず、真剣に他の言語を生活に必要と

はしてこなかったのです。

  「英語」は言語です。 「日本語」も言語です。 皆さんは、日本語を身につけていった過程を覚えていますか。 または、

考えたことがありますか。 オギャーと生まれて、または母親のおなかにいるときから、私たちの耳は色々な音を聴き続

けています。 ほとんどの場合、保護者の意味ある語りかけと赤ちゃんである自分への対処が重なり、言語を徐徐に

意味を持つようになって行きます。 「おなかすいた? おっぱいね。」 「どうしたの? おむつかな?」 「あらかわいい。

こっち向いて。」 「笑った、笑った。」 と言葉の行水です。 約1年間、この行水が続きます。 そして、意味不明な「なん

ご」と呼ばれる発話の後に、好きなものの真似をする語が生まれてきます。 母親を見て、「マーマー」。 車を見たら、

「ブーブー」。 ここまでで言語の大きな部分が獲得されています。 聴いた音声に意味を持たせ、物と結び合わせること

ができ、自らの発話器官を使って表現することができるまでになっているのです。 この「沈黙の期間」は、言語を獲得する

上で非常に大切なものです。ここがあれば、それ以降の言語獲得の営みは非常にスムーズになります。 

  言語は大きく2つの分野に分けられます。 「音声言語」 と 「文字言語」 です。 そしてそのそれぞれが、また2つに

分けられます。 音声言語は、「聴くこと」と「話すこと」に、 文字言語は、「読むこと」と「書くこと」に分けることができます。

母語は先ほど例を挙げましたように、まずひたすら「聴くこと」 という時間を持ち、模倣から始まる「話すこと」へ移行して

いきます。  音声言語がかなり定着してくる頃前後から、「文字言語」の導入が始まります。 絵本を読んでもらったり、

積み木に書かれてある文字が目に入ったりと刺激が生まれます。保育園や幼稚園に入ると、自分の名前が「文字」として

何度も登場します。 学校に入ると、ほとんどすべての教科で教科書という「文字言語」のパレードが始まります。 どうし

ても、多くの人数を少ない先生で見る学校という場所には、「文字言語」を中心に動かざるを得ないという苦しい懐事情も

あるのです。 「書くこと」まで言語のレベルが上がるのは、実のところ人によって様々です。 宿題と言う形で、何かを

書く必要に迫られたとしても、「写す」、「真似する」レベルから、自分の思考をまとめて「文字言語」にするまで達していない

場合も多いのです。 言語は即ち人の思考と大きく結び付いているのです。

  では、ここまで書いてきて、最初にんみなさんに問いかけたこの2章のタイトルでもある 「英語をものにするとは」 に

答えは見つかったでしょうか。 多くの意味を伴う英語を聴いて、聴いて、それを理解できるレベルに達したら、話し始め

て、 読んで書くというレベルに移行していく。 そこには英語で考えるという思考も兼ね備えている。 という風にまとめる

ことができるでしょうか。 

  ほとんどの日本人は、この言語獲得の概念がありませんし、英語という言語をそのように手に入れていこうともして

いません。 言語の獲得順序とは全く異なる「文字」からの導入や、「文字」中心の教育とテストが当たり前です。 せめて

発音記号が読めたらと思うのですが、高校の現場でもその重要性を語る教員は多くありません。 長文読解力をどの

ように挙げるかが話題の中心です。

  だから、みなさんは英語が苦手なのです。  言語獲得の順序を無視したような教育とテストにさらされれば、誰だって

気持ちが重くなります。  でも、これを読んだ皆さんは、長いトンネルから抜けることができる切符を手に入れたような

ものです。 言語とはどんなものかを知ったのですから、その特徴を押さえて、学習計画を立てることです。 どれほど

「聴くこと」が大切かをわかっていただけたでしょうか。 リスニング教材は今あふれかえっています。 ただ、みなさんは

大人ですので、 母語を獲得していった時のような順番には無理があります。 精神年齢が高いのです。  抽象思考が

充分できるのです。 好きであれば、英語の音楽をipodに入れて、カラオケで歌えるまで聴いて真似するのが良いと思い

ます。 しかし、ビジネスマンのあなたが、仕事に使うためにはやはり一番今今身近なのはTOEIC教材でしょう。 リスニ

ング495点、 ライティング495点のテストですから、「聴くことが」半分を占めます。 大学卒業であれば、400から500点は

取れると思いますので、600点を目指すような教材を購入し、ipod に入れてどこでも聴くという習慣をみにつけましょう。

ipad でその文字が読めるとなお効果が上がると思います。 そして3か月をメドニ実際に検定(TOEIC)を受験することが

大切です。 ビジネスの場面で、それが使えることが目標ですから、積極的に名乗りを上げられるよう、または上司の目に

留まるよう力をつけることが大切です。

  そろそろ、休憩時間も終わりではないでしょうか。 英語をモノにするとは、その4側面すべてに長けることと言いかえ

られます。 母語を身につけた時、誰でもが知らずにやっていたことです。 この知識を、実際の英語学習に生かしていく

ことをお勧めします。