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8 人生を豊かにするもの
これを読んでいる皆さんは独身だろうか。 一人暮らしだろうか。 自分の両親と暮らしているだろうか。 色々な立場
の人がいるだろう。 私は20歳まで引越しをしたことがなかった。 狭い家に、祖父母と両親と妹と私の6人で暮らしていた
。そこから大きな波が来た。 両親が地方都市へ家を建てて引っ越した。 私は一度はついていったが、大学へ通うのが
大変で、寮に入ることにした。 初めて親元を離れたことになる。 それからアメリカへの1年間の留学。日本へ戻って友人
と二人でのアパート暮らし。 教員になって2年間は両親と一緒に暮らした。 そして結婚。 見知らぬ土地での新生活と
教員生活。 私は教員採用試験を2度受けている。 二人の子供の出産と育児。 病気に悩まされる日々の始まり。 振り
返ってみると、20歳からの私の人生は激動たっだと感じる。 子供が生まれてからはよく思った。 もちろん、その誕生は
嬉しいし、かわいいのだけれど、その反面絶対逃れることのできない責任がついてきて、「部活動のように、退部します」
と子育てを放棄できればどんなに楽だろうと心の中で、または夫に叫ぶことが多かった。 結婚したくてもできない人や、子
供が欲しくてもできない人にはお叱りを受けそうだが、私の本音だった。
一人で生活することは、自分の得た収入と自由な時間を、自分の計画通りに使えるという大きな特典がある。 いった
ん、結婚してパートナーと生活を共にすると、経済的にも時間的にもすべてが自分の計画通りに進むわけではなくなる。
子供が誕生すると、育児に追われ、教育費の準備をしと何のために働いているのかわからなくなったりする。 結婚しなく
ても両親と暮らしたりする場合は、経済的な問題や、老いることへの対処やらとこれもまた簡単ではない。
面倒くさいから、誰もいないところで一人きりで生活する と断言しても、社会で生きている私たちは、よほどの資産でも
ない限り、そうはいかない。 でも、その煩雑さこそが、私たちの生活を豊かにしてくれているものだということに気づいてお
られるだろうか。 パートナーを得て、初めて知る価値観があるかもしれない。 子供の誕生で世界観が変わったという人
も多い。 次の世代に何を残すかを真剣にかんがえるようになった、食の安全を考えるようになったという人もいる。
教育と向き合い、社会と向き合い、お金と向き合う真剣勝負をする人も多い。 結婚していても、独身でも、人は老いる。
自分の親世代の方が先に老いる。 どうやって死を迎え、受け入れるかはだれしもが直面する問題である。 少子高齢化
の現代において、これは待ったなしの問題であり、他人ごとではない。
夫は特別支援教育に長く携わっているが、彼曰く、「学校を卒業したら、5教科以外が大切になる」そうである。 これは
物事の真髄を就いていると思う。 学校では「読み書き算」が威張っていて、入試も基本はこういう教科である。 しかし、
人間の生活で必要な「読み書き算」は小学校3年生程度でほとんどは賄えると夫は言う。 音楽や美術や体育(スポーツ)
などが長い人生を歩んでいく上で非常に大切だとも言う。 英語教師の私は、では私の仕事は役に立つのだろうかとがっ
かりもしたが、言われてみればその通りである。 私は、健康を維持するためにジムへ通いだし、ストレス対処で音楽を
聴いている。 印象派の絵が好きで、見ると気持ちがあったかくなる。 皆さんはどうだろうか。
一度きりの自分の人生を悔いなく、生き生きと豊かにするにはどうしたらよいかのヒントになればと思い、これまでの
人生を振り返ってみた。