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顔面神経麻痺


ある朝起きて歯を磨いていると、口から水がこぼれる。
「あれっ?」っと違和感をかんじながら鏡をのぞいてみると、眼がうまく閉じれず口もひきつり、顔がゆがんでいてビックリする...。

顔面神経マヒとは、片側の顔の表情をつくる筋肉が麻痺してしまう病気です。

顔面神経マヒになって困っている方、また周りに顔面神経マヒになってしまった人がいる方のためにも、西洋医学的分類、治療方法そして中医学的分類、治療方法、リハビリと調べたことを書かせていただきます。。


<西洋医学的分類と原因>
まず、顔面神経マヒは中枢性と末梢性の大きく2つに分かれます。 ・ 中枢性とは、脳と脊髄のことをいいます。 ・ 末梢性とは、脳と脊髄から木の枝や根のように出ている神経のことをいいます。 このことからわかるように、中枢性顔面神経マヒとは脳の中でおこった血管障害(脳梗塞、脳内出血)が考えられますので、CTやMRIの検査が必要になります。速やかな専門医への受診が必要になります。

末梢性顔面神経マヒは、80%以上がベル麻痺と呼ばれる原因のはっきりしないタイプです。最近では、その原因はウィルス性、寒冷刺激、虚血性、免疫異常な どが考えられています。年間10万人に22,8人発症するといわれています。次に多いのがラムゼ・ハント症候群といわれるもので、子供の頃に患った水痘 (みずぼうそう)のヘルペスウィルスが成人してから神経をおかす病気です。少数ですが、糖尿病性、外傷性、多発性神経炎というものも原因になります。


<中枢性、末梢性顔面神経マヒの鑑別(見分け方)>
中枢性、末梢性の鑑別の仕方は、顔のゆがみ方や全身の症状より判断します。

※ その前に・・・
顔面神経マヒでは、麻痺している側(患側)と正常(健側)を間違えてします方がいます。これは筋肉が麻痺して力がなくなっているので、正常な方(健側)へ と引っ張られてしまい、一見麻痺している方がのっぺり無表情で正常な方がゆがんで見えたりします。
表情の作れない方が麻痺しています。注意してください。

中枢性の顔面神経マヒの鑑別(見分け方)方法
・麻痺している側の額のしわをつくることができる。
・麻痺側の閉眼が出来ます。
・麻痺の程度がひどくない。
・手や足の痺れ、麻痺などが同時に出現する。
などがあげられます。

末梢性の顔面神経マヒの鑑別方法
・麻痺側の額のしわをつくることができない。
・閉眼が不充分になる。
 閉眼すると白目が残る―兎眼といわれます。
 閉眼すると眼球が上に向いてしまう―ベル現象といわれます。
・鼻唇溝(口の端から鼻の端にできる皮膚のしわ)が薄くなる。
・口角が下垂し正常な側へ引っ張られる。
・口笛が吹けない、パピプペポが発音しにくい。

 また聴覚過敏、味覚低下、唾液、涙の分泌低下も伴うことがあります。


<中枢性、末梢性 顔面神経マヒの西洋医学的治療と経過>
中枢性では、脳の血管障害(脳梗塞、脳卒中)に基づく治療となりますのでここでは省略させていただきます。
現在、日本においては内科(神経内科)、脳外科での治療となるそうです。

末梢性では、
急性期(発症より1週間~10日)―早期にステロイド(副腎皮質ホルモン)の注射により炎症を抑える。
メチコバール(末梢神経障害における神経の修復)、回復期(1週間~10日以降)―温熱、マッサージなど本格的なリハビリをいていく。

これらの治療によりベル麻痺の約70~80%は完治します。軽度のもので1~2ヶ月。中等度のもので2~3ヶ月で治ります。年齢が若いほど経過は良好です。15%ぐらいに軽い麻痺。
残りが慢性期へと移行していきます。慢性期では後遺症の一つとして病的共同運動とよばれるものがあり、これは回復の過程で神経に混線が生じた結果 、口を開閉したときに眼の筋肉が勝手に動いてしまったり、物を食べるときに涙が出てしまうといったことがあります。
またラムゼ・ハント症候群ではベル麻痺に比べ予後が少し悪く残るそうです。


≪ポイント:ベル麻痺では治療をしなくても麻痺は回復します≫
ベル麻痺では治療を受けなくても自然治癒するといわれることもあるようです。これは大変に希望の持てることですが、中枢性や他疾患との鑑別 、また病気の程度や治療の時期、リハビリのやり方で予後に影響がありますので病院や信頼のおける鍼灸院での治療をお勧め致します。私は「そのうち治る」と言われ治りませんでしたから、速やかな治療をおすすめ致します。



<東洋医学的分類と原因>
東洋医学でも顔面神経マヒの場合、やはり中枢性と末梢性の鑑別をおこないます。
中枢性の場合は中風(脳血管障害)に基づき診断、治療していきます。

末梢性顔面神経マヒは、経絡の気血の流れが弱くなっているところに、風寒(ふうかん)や風熱(ふうねつ)という邪気が襲いかかり、その結果 として気血の流れが滞り、筋肉が麻痺すると考えます。

経絡の気血の流れが悪くなる原因としては、ストレス、睡眠不足、過労、食事の不摂生などが上げられます。
風寒、風熱というのは、温度差や冷たい風をあびる(汗をかいた後に風をあび急速に身体を冷やすことも入る)、ウィルスなどのことと考えます。
風邪(ふうじゃ)、熱邪(ねつじゃ)は身体の上の方を犯しやすい邪気です。
寒邪(かんじゃ)はよく筋肉、経絡を引きつらせる邪気です。


<東洋医学的治療と経過>
鍼治療が中心になります。
治療の1つ目のポイントは、まず早期に治療を開始することです。邪気の性質を見極め、体質を考慮しながら鍼治療し、スムーズに回復期へと移行させることが大切です。
2つ目のポイントは、麻痺の時期を見ながら顔の経絡の気血の流れをよくすること、そして邪気を追い出すことです。
顔から手、顔から足へ流れる経絡―主に陽明経という経絡を使って治療します。   手の陽明経は人差し指の先から肘、肩、首を通 り口の横を抜け鼻の脇に至ります。   足の陽明経は鼻の脇から口、額を巡り、下がって胸、お腹を通 り足の先まで下がります。 経絡の流れをそのまま使うのは鍼治療の1つですが、顔の治療なのに手や足のツボを使う理由がここにあります、経絡と言う道筋が繋がっているからです。

急性期―顔面神経マヒは、始めの1週間は治療で邪気を抑えていても進行していく過程をとります。この時期は、顔面 部で邪気と人間の正気が戦っている最中なので、主に手足のツボを使用して強めの刺激で遠隔治療をします。遠隔治療とは、局所から離れた所に取穴を行い治療 を行うことです。経絡と言う道筋を活用して居るからです。局所から離れた所に刺激を与えることにより、気や血のエネルギーの流れを改善する事により局所の 症状を改善する目的があります。これは、東洋医学(中医学)の独特な考えの治療の特徴でもあります。このような治療は局所のみの治療より、全体的な治療に なり治療効果 が高くなります。

回復期―1週間ぐらいで麻痺の状態が決まり安定します。邪気と正気の激しい戦いが一段落してから主に顔面 部のツボを使い、同時に手足のツボで気血を整えます。

慢性期―治療開始が遅れたりして慢性期になってしまった場合は、顔面 部の気を補い、また手足のツボで気を補ったり調整したりします。

<回復期のリハビリ、マッサージの仕方、注意点>
リハビリでは温熱療法、運動法、マッサージなどがあります。
ここでのポイントはやり過ぎないことです。
運動療法、マッサージを疲れたり痛みが出るほどのやり過ぎると、神経系の連絡不良(混線) を起こす可能性となりますので注意が必要だそうです。

温熱療法―蒸しタオルで顔を温めます。手で触って心地よい暖かさで温めます。

運動療法―ポイントは一つ一つのパーツをバラバラに動かします。
・額にしわを作る。
・頬を膨らます。
・鼻をすくめる。
・口角を引き上げる(イーと口を横に引く)。
※ この時、目、鼻、口はバラバラに動かしましょう(病的共同運動を防ぎます)。手で触ってみて目と口が同時に動かないように注意します。
  マッサージ療法 ・ 額、眼、口の周囲は手で円を描くように動かしながら優しくマッサージします。 ・ 口角、頬は手で円を描きながら上向き   に持ち上げるように優しくマッサージします。 ・ 首、肩も同じようにマッサージすると効果 的です。
※運動療法、マッサージの前に温熱で   温めてからやると効果的です。日常で注意すること ・ 風に当たらないように注意しましょう―冷た  い風の吹く日はマスクをしましょう。また、汗をかいた後も風で冷やさないように注意してください。 ・ 眼の保護―眼が完全に閉眼できない  ため、角膜が乾燥しやすくなってしまいます。眼帯を着用したり、目薬をさして眼が乾燥過ぎないように注意しましょう。 ・ お酒と控える―ア  ルコール代謝物質のアセトアルデヒドが神経に悪影響を及ぼすと考えられている。 ・ ストレスと避けましょう―東洋医学では、ストレスより  気血流れが悪くなると考えます。 過度のストレスを避けてください。
  体調を整えましょう―治療をしていても家や仕事、不摂生をしている、経絡の流れが悪くなり回復が遅くなります。特に急性期、回復期に   かけては規則正しい生活を心がけてください。